「マイレージ、マイライフ」
ITバブルが華やかなりし頃、また村上ファンドのインサイダー取引事件があった頃、「虚業」という言い回しを良く耳にした。
何が「虚」で何が「実」なのかよく分からないが、純粋な肉体労働以外を「虚」と言われるのだったら、ホワイトカラーの大半が虚業を営んでいることになると思うけど。
一年のほとんどを北米中飛行機で飛びまわる出張族ライアン・ビンガム(ジョージ・クルーニー)の仕事は、企業から依頼を受けて従業員に解雇を通告すること。「出張」というライフスタイルを愛し、1000万マイルのマイレージに到達することのみを夢見る彼の生活は極めてシンプル。スーツケースに収まらない荷物も人間関係も背負い込まない。しかし、そんな彼の人生観を覆す出会いが訪れる・・・。
この主人公の仕事こそ最も「虚しい」もののひとつかもしれない。
企業からの依頼を受け、従業員に「クビ」を言い渡す。
依頼主とは違って実際の現場を飛び回る彼は、生身の人間たちの実情も十分踏まえたプロフェッショナルだ。
リストラを宣告された人がどういう反応を示すのか、そしてそれにどう対処すべきなのか、誰よりも現場を見てきた彼はスマートではあるけれども決して冷徹ではない。
このあたりの描き方は、観る人に主人公へのシンパシーを掻き立て、この特異なキャラクターに自然に寄り添うことができるように練られている。
「JUNO」のジェイソン・ライトマン監督らしく心温まる設定だと思う。
余計なものを何も所有しない、極めてシンプルなライフスタイルを持つ彼に訪れた転機。そして・・・
ほろ苦い結果は恐らく誰にでも予想のつくものだが、この映画のあざといのは、どういう結末であってもジョージ・クルーニーなら「画」になるということだ。
胸にツンとくる挫折感と晴々しいくらいの虚しさは、ジョージ・クルーニーというキャラクターのダンディズムとヒロイズムを通して、観る者に映画的な充足感を与えてくれる。
最後には実際にリストラに遭って人生の岐路に立った人たちが数名登場し、コメントを残す。失業大国アメリカにおけるハート・ウォーミングなエールを設けたのだろうけど、ちょっとちぐはぐな感じも受けた。
ま、僕らはジョージ・クルーニーにはなれないからね。
観終わった後ほんの少しだけジョージ・クルーニー気分に浸れる(勧善懲悪のアクション・ムービーを観た人たちが肩をいからせて映画館を出て来るのに似てるよね)という意味では悪い映画ではないです。
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