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2008年5月17日 (土)

「トロイア戦争とシュリーマン」

Troyトロイア戦争とシュリーマン」を読みました。

「絵解き世界史」のシリーズとして出ている一巻です。

トロイア戦争を描いたホメロスの著書「イリアス」の副読本的な解説書であり、同時に、トロイア遺跡を発見したハインリヒ・シュリーマンの仕事と人物像について描いた本でもあります。

構成として非常に面白いのは、後世に描かれたトロイア戦争に関する絵画や彫像、そしてトロイア遺跡に関する図版・出土品などの「絵」による資料をふんだんに挟みながら、「イリアス」の解説とシュリーマンに関する話を交互に書き込んでいるところ。

多くの人は、貧しい少年時代を過ごしたシュリーマンが、子供の頃に読み聞いた「イリアス」に抱いた夢を忘れずに、実業家として大成し、私財を擲ってトロイア発掘を果たした「偉人伝」として、シュリーマンを知っていることでしょう。

しかし、武器商人でもあったシュリーマンは、驚くほど強欲で、地位と名声のためなら虚言を弄することも人を裏切ることも全く厭わず、それどころか自説を強引に認めさせるために多くの貴重な出土品を破壊し、盗み、私物化し、後の考古学的研究に多大な被害を及ぼした人物でした。

当時は考古学学会からとんでもない素人学者として忌み嫌われた人物も、「美談」として伝え残されていることも多いのは、彼の著作などによる自己宣伝の巧みさもあるようですが、それでもやはり、彼が独力でトロイア発掘に先鞭をつけた(決して「トロイア戦争」の「トロイア」を発見したわけではなかったけれども)功績が小さくはないからでしょう。

この本では、そんなシュリーマンの恥知らずな人物像に対して決して好意的とは言いかねる描写を重ねながらも、そこにギリシャの神々とプリアモス、ヘクトル、パリスやアガメムノン、アキレウス、オデュッセウスらの英雄譚を絡み合わせながら、最後にこう結んでいます。

「男はトロイアを夢見た―たとえその主張の大半が間違いだとしても―トロイア遺跡の発見者、それはハインリッヒ・シュリーマンである。」

史実と神話を糾える縄のように詠うホメロスの物語と、自らの「信念」のために嘘と裏切りで塗り固められたシュリーマンの生涯が、本書の中で呼応するように絡み合い、充実した読後感が得られました。

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