「善き人のためのソナタ」
最後の1シーン、ひとつの台詞のために物語が紡がれる映画というのがありますが、これはそんな映画だと思います。
2007年アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「善き人のためのソナタ」です。
すべては最後のシーンの一言に集約されるのですが、それはもちろんそこまでの物語が丹念に描かれてこそ生きてくるものです。
ベルリンの壁の崩壊の5年前、1984年、東ドイツ国家保安局のヴィースラー大尉は、ある劇作家とその恋人の女優が反体制的であるという証拠を掴むために、彼らの生活の監視(盗聴・盗撮)を始めるが、盗聴を進めるうちにヴィースラーの心に少しずつ変化が現れる・・・というストーリー。
格調高い演出で登場人物それぞれの危うい心の様子を丁寧に描いています。
ただ、作品のコピーにもある「この曲を本気で聞いた者は悪人にはなれない」という劇中の台詞が、ヴィースラーの心を象徴しているのですが、僕にはこのヴィースラーの変遷がちょっと自然には理解しにくかったかな。
人の強さと弱さの表裏一体を見事に表現したヴィースラー役のウルリッヒ・ミューエ(最近亡くなられたそうです)の演技は素晴らしいものでしたが、彼の心の変化を表すにはもう少しエピソードを重ねても良かったかもしれません。まあ、ちょっと映画が長くなりすぎてしまいますが。
そのあたりに少々引っ掛かりを感じましたが、観終わった後は秀逸な文芸作品を読み終えたような充実感が残ると思います。
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