「にぎやかな天地」
忙しいときほど本を沢山読んでしまうのは学生の頃と変わっていません(笑)。宮本輝の新しい小説「にぎやかな天地」を読みました。
基本的なテーマは宮本作品の王道を行くもので、生命あるものの営みの厳粛さや宇宙的な繋がりを「発酵食品」「微生物の生命活動」になぞらえて描いてゆきます。
宮本輝の小説は多くの登場人物それぞれが非常に魅力的に描かれ、だからこそ人と人との不思議な繋がりを説得力のあるものとしています。この小説でも、ほんの少ししか登場しない人物像も細緻に描かれており、読み終えたあとは何故だか人恋しい気分にさせます。そのあたりも宮本作品の王道と言えるでしょう。
魅力的な登場人物を配置し厭きさせず読ませてくれる小説で、上下巻ある長編ではありますが、読了後はこじんまりとした、少し中途半端な印象が拭えません。作品のテーマ自体は大きなものですが、かつての宮本作品のような「生命あるものたちを結びつける運命のうねり」ともいえるような展開はなく物語は終わります。この作品でも阪神大震災の陰は大きく、10年たってなお作者自身も作品の中にどのように描いていけばよいのか迷いがあるのかもしれません。
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コメント
「宮本輝」かぁ。すっかりご無沙汰ですね。
好きなんだけどなぁ。ちょっと作者自身の古臭い小説家気質が気にはなるけど・・・。
そういや「流転の海」は完結したんだっけ?「第一部」は読んだけど、あとは完結してからと思って、その後フォローもしとりません。
投稿: 鈴麻呂 | 2006年3月11日 (土) 21時12分
「流転の海」は今のところ第4部までですね。
確か第5部で完結と言っていたような気がしますが・・・。
>ちょっと作者自身の古臭い小説家気質が気にはなるけど・・・。
確かにね。まだ50代のはずですけど。
投稿: akamatsu | 2006年3月11日 (土) 23時30分